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こ の 中 に い ま す 作:大根/中学1年 女子
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「あのぅ」
気弱な彼女が話しかけてきたのは、その時からだった。
「なに、三郷さん 急に話しかけてくるなんて …熱でもあるの?」
三郷…新庄三郷は、精一杯首を振ってから言った。
「今日の放課後に…ミニルームにきてください」
ミニルーム、というのは、生徒が軽く喋ることができる部屋だ。使われていない教室をリメイクして作ったらしい。
「まぁ暇だし…いいよ」
私は答えた。今日は特になにもない日だ。彼女の顔が少し上がった。
「本当ですか」
私はもう一度頷く。
「いいって言ってるじゃん 放課後にミニルームだね」
三郷の顔がこちらを始めてむいた。よく見ると可愛くて、思わず目をそらしてしまう。
「ありがとうございます…では」
彼女は足早に立ち去っていった。
「…変なの」
三郷とは何の接点もなかったのに、なんで急に話しかけてきたんだろう。
私は、坂田麻里。中学1年生である。三郷も同じだ。クラスメイト、というものかな。そのくせ、三郷とはあまり話さない。私に特殊な能力とか、期待しないでよね。ただの平凡な女の子なだけだから。
三郷は、クラスメイトになった時からおどおどしていた。みんな友達を探すのに必死なのに、三郷は誰にも話しかけようとしない。話しかけられないのかもしれないが。私にも、よく話すような友達はいない。話しかけてくれれば話すけれど、人間には興味がないので、自分から話しかけるのはやめていり。そんな感じで、半年を過ごしてきた。
「来てくれてありがとうございます」
三郷は、約束通りミニルームの隅に1人待っていた。
「それで、話ってなんなの?」
私の口調に彼女はびくっと肩を震わせた。
「す…すみません」
足が震えているのがわかる。私ってそんなに怖かっただろうか?
「あの、山下遥さんのことなんですけど」
山下遥…聞き覚えがあった。確か、不登校になっている女の子だ。理由は特に分からないが、学校に来ない。
「あぁ不登校の子?それがどうかしたの?今日も来てなかったけど…」
「きてます!」
初めて三郷の大きな声を聞いたので、今度は私の肩が飛び上がった。
「来ているんです」
まだ、三郷の声は戻らない。
「彼女は来れないんです 行けないんです」
その時の私は混乱していて、彼女が同じ意味の言葉を繰り返していることに気がつかなかった。
「ど…どうして?」
私は焦って聞いた。
「悪口を言われているんです」
心底おどろいた。山下遥が悪口に打たれることなんてないと思っていたのだ。
「あのいつもにこにこしている彼女が?悪口で?」
私の心は声に出てしまった。
「はい…彼女は悪口を言われるせいで…」
三郷は言葉を濁した。そりゃそうだ、同じことをさっきも言っていたんだから。
「来れないんです!」
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