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「誰もいなくなっちゃった」
彼女はさみしそうにつぶやいた。僕はフードを深く被る。言葉は発さない。
「もう、いいかなぁ、なんて思うんだよ」
彼女は少しだけ悲しそうに、目を細める。
「あの人は、死んじゃったのかな、あの人も、どうしてるんだろ」
私のことなんて忘れて、楽しくやってるといいけど。
彼女は呟いて、立っている僕の隣にべちゃりと座った。
夜明けが近いのか、空はうっすらと赤みを帯びていた。
「ねぇ、あんたは、幸せだったの」
「んー、まぁ」
「ふーん。短い人生だったねぇ、お互いに」
ぽふ、とフードごしに頭を撫でられる。
「神オタク女子高生の白雪リンはここでおしまい」
僕の頭を撫で回す彼女は、
「おしまいかぁ」
ゆっくりと、
「おしまい、」
名残惜しそうに、
「おしまいは、やだなぁ」
笑った。
ばあん。
何かが破裂したような音が鳴り響く。目を見開いて辺りを見回すと、世界は朝焼け色から透明に変わっていた。透き通るような白色。
「あはは、おしまいみたいだね」
「…………ねぇ、白雪リン」
「ん?」
「君は、幸せだったのかい」
そう訊くと、彼女は朗らかに笑ってささめいた。
「それなりに」
ぱんっ、音を立てて彼女の体がはじけ飛んだ。彼女から溢れたのはカラフルな液体。色たちは彼女からこぼれてびちゃりと床に跳ねた。
透明な世界の中で僕は目を閉じる。
「これでよかったんだよね」
もう返事をしない彼女に問いかける。鼻がツンと痛んで、瞼の裏が熱くなる。
パーカーのフードがずり落ちて耳が露出することなど、もう気にしていられなかった。
「君は、狡いよ」
涙が滲んで止まらないのは、たぶん、彼女のせいではないだろう。
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