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遥斗は少し疑問に思っていたものの、深く考えずに理科室へ向かった。
栞は音楽室の扉を開けて、またピアノの前で待機していた。
「あと1分……」
遥斗は理科室へ入ろうとした。けど……
姿が見える前に自分の姿が見られたら逃げられてしまう…
遥斗はそう思い、あえて理科室には入らず廊下で待機していた。
そして、時間が来たら中に入って探す作戦だ。
9時9分。栞の前には例の男の子がいた。
「…何か思い出した?」
男の子は口を開いた。
「…ここにいる理由。長くなるけど」
栞はうなずいて男の子の話を聞いた。
十分に聞いた後にまとめると、男の子は小学生の時この学校に通っていて、すごく音楽が好きだったらしい。実際に死んだのは中学生らしいが、一番心に残っていたこの部屋に戻ってきたみたいだ。
「何か、心残りなことでも…?」
「わからない…でも、あの曲が何か関係ある気がする」
男の子の答えは曖昧だった。
カモミールのことだろうか。
「あなたは、ずっとここにいるの?」
栞はふと不思議に思い聞いた。
「…多分、やりたいことができるまではいなくならないと思う…」
また曖昧な答えだった。
そうして、すぐに1分は過ぎて男の子は消えた。
一方理科室では…
9時9分になると同時に遥斗は理科室に入った。遥斗は周りを見渡すと、すぐに女の子を見つけた。
女の子は理科室に飾ってある花の前にいた。
遥斗はそっと近づいていく。
そして、女の子との距離が約2mになったころ、ようやく気付いて後ろを向いた。
「えっ……」
女の子は驚いていたが、急に走り出した。
「あ、待てっ!」
遥斗は女の子をつかもうとした。
「……」
遥斗はその場に立ちすくんでしまった。
女の子は遥斗の体を通りすぎていったのだ。
実体が…ない……?
触れることができなかった。やっぱり、幽霊なのか…
時計を見ると、9時10分になっていた。
階段を下る音が聞こえる。
「どうだった!?」
栞だ。様子を見に来たのだろう。
「逃げられた…」
栞はその場に座り込んだ。
「もう戻ってこないかもね」
「なんで逃げるんだろう…」
栞は男の子から聞いたことを遥斗に伝えた。
「そっか…何が心残りなのか、探さないとな」
「幽霊だし、成仏とかするのかな…?」
遥斗もそう思っていた。解決すれば成仏するのだと。
「成仏の手伝いしようぜ」
「うん、いい気持ちで成仏できるように…」
解決すれば成仏する…そんな保証はなかった。
そして、その日は特に情報を得ることも出来ず、女の子も見つからないまま次の日に。
しかし、土曜日のため、学校に行けない。
仕方がないから、家で情報収集することにした。
2人は遥斗の部屋に集まった。そして、パソコンを開き、カモミールを調べてみた。
何か新しい情報が手に入るかもしれない。
そして少し経つと、2人が演奏していた曲を見つけた。
「これだよね?」
「そうそう、これを学校で…」
しかし、作った人は外国人で、学校に関係があるとは思えない。
他に何かないかとさらに調べ続けると…
「カモミール……花?」
カモミールについての記事を見つけた。
あの曲の題名は花の名前だったのか……
2人は調べ続けた。
「カモミールは薬草として使われていて…これは関係ないか」
「えーっと……花言葉は仲直り?」
「それ関係あるかもね」
「誕生花は2月14日…3月14日…11月3日……」
2人は関係ありそうな事をメモしていった。
「これで、聞いてみるか……」
そうして2日が経ち、月曜日になった。
8時5分、今度は2人で音楽室に向かった。
8時8分になると、いつも通り男の子はそこにいた…
「この前カモミールについて調べてみたんだけど…」
栞は男の子に話しかけた。
「お花の名前らしくて…何か分からない?」
男の子は静かに首を横に振った。
「そっか…」
栞は残念そうだったが、遥斗はさらに続けた。
「仲直りって花言葉らしい…誰かと仲悪かったとかある?」
遥斗は、仲が悪かった友達にあげるために花を使ったと考えた。そしてその花のことを覚えていたのだと。
「仲直り……」
男の子はしばらく考え込んだ。
しかし、やっぱりよく思い出せないようで首をかしげた。
遥斗はふと誕生花の事を思い出した。それはたしか、バレンタインやホワイトデー…?関係あるかもしれない。
「この花の誕生花が2月14日と3月14日と11月3日なんだけどさ……」
遥斗は男の子に話しかけた。
「……!」
男の子の表情が変わった。
「思い出した…!」
2人はお互いに「やった!」という感じで目を合わせ、すぐに問いかけた。
「何を思いだしたの?」
男の子は「多分…」と言った後に続けた。
「カモミールの染め物を、友達に届けようとしたんだ」
栞は男の子の言葉をメモしていった。
「その子は女の子で、ホワイトデーの少し前、喧嘩しちゃったんだ」
だんだん鮮明に思い出してきたようだ。
「そして、仲直りにいい物を調べてたらカモミールが出てきて…誕生花がちょうどホワイトデーで、しかも花言葉が仲直りって知って……」
なるほど。だんだん話がつながってきた。
「…それで、喧嘩してたけどなんとかその子を呼び出して一緒に歩いてたんだ。お互い一言も話さなかったけど、僕は勇気を出して…」
そこで渡したのか…
「渡そうと話しかけたんだけど、曲がり角から車が急に飛び出してきて…」
えっ……
あまりの衝撃に2人とも黙ってしまった。
そして、男の子は急に消えた。
もう1分が経ってしまったんだ……
「…ねえ、ハル」
「あの子、事故で…?」
2人は急に悲しくなり、静かに教室へと戻った。
そして9時5分。再び2人は音楽室へ。
少し待つと、気づかぬうちに男の子が現れていた。
「それで、さっきの続き、聞かせて」
栞が言った。
「そこからの記憶は、ほとんどないんだ」
ほとんど……?
「でも、死ぬ直前、隣にその子がいたのは覚えてる」
もしかして……
2人は息を呑んだ。
「一緒に死んじゃったかもしれない…」
男の子は小さな声で言った。
「そして、染め物は渡せていないんだ。もしかしたら、それが……」
その可能性が高そうだ。2人は思った。
「あ……」
栞はあることを思いついた。
理科室の女の子。あの子が男の子の言っている子なのではないか、ということだ。
しかも、一緒に死んじゃったとして、同じ学校に2人とも現れたのだから。
「わかった。ちょっと考えてみる」
栞は男の子に言った後、ハルに自分の推理を伝えた。
「たしかに、そうかもな…」
あっという間に1分が経ち、男の子は消えた。
「明日、カモミールの染め物、作ってこよう」
「そして男の子に渡して、そこから理科室の女の子へ…」
2人は作戦を練った。
「じゃあ、染め物は俺が作ってくるよ」
「大丈夫?作れる?」
「なめるなよ、染め物くらい作れる」
「本当??」
栞は心配だったが、正直今日はいろいろと忙しい為、遥斗に任せたかった。
「じゃあ、お願い」
「任せとけ」
2人は教室に戻った。
そして次の日、事件は起こった。
「なにこれ……」
栞は絶句した。
「…ごめん」
遥斗は滅多に謝ることはないものの、今回だけはすぐに謝った。
「昨日作り終わってそのまま置いておいて、放っておいたらこうなってて…」
ハンカチをきれいな色で染めた素敵なものだったが、その上にとても目立つ染みがあった。
「机の上に置いておいたんだけど、お母さんがコーヒーをこぼしちゃったみたいで…」
それはちょっとした事故だった。
でも、栞はなぜか激怒した。
「やっぱり、ハルに任せるんじゃなかった…自分でやるから、もう手伝わないで」
なんでこんな言い方をしてしまったのか、自分でも分からない。
「1回のミスでその言い方かよ…もういい、俺こそお前の手伝いなんてするか」
2人はそれっきり、一度も話すことなく1日を過ごした。
お互いに悪いことをしてしまったという気持ちはあった。
でも、自分から謝ることができなかった。
その日の夜…
栞は忙しく、カモミールを買いに行く時間もなく、ましてや作る時間もなかった。
「仕方ない…また明日作ろう」
疲労のせいか、作る気力もなく、すぐに寝てしまった。
一方遥斗は……
もう一度、染め物を作っていた。それも2つ…
1つは男の子へ。もう1つは……栞へ。
「俺から仲直りしないと…」
次の日、遥斗は勇気を出して栞を誘い、一緒に帰ることにした。
栞は勘づいていた。
男の子と同じことをするんだな、と。
とても嬉しかった。でも、違ったらどうしようと、不安もあった。
帰り道を半分行ったころ、遥斗は口を開いた。
「あのさ……」
2人は歩き続けていた。
「この前はごめん、俺の不注意で、台無しにしちゃって…」
「ううん、私も言い過ぎた」
お互いに謝ると、遥斗はハンカチを出した。
「これ、今度はちゃんと完成したよ」
立ち止まった遥斗の手には2つのハンカチがあった。
「1つは男の子にあげて、もう1つは、栞にあげる。これで、仲直りしようぜ」
遥斗はニコッと笑うと、栞に手渡した。
「…ありがとう」
栞は嬉しそうに言った。
しかし、悲劇は起こった。
「これ、とっても綺麗…」
2人は再び歩き出した。
それも、ハンカチを見ながら……
当然周りなど見えていない。
そして、曲がり角へやってきた。信号機などない。
2人はそのまま道路を渡ろうとした。その瞬間……
キ―――ッ
「悲劇は繰り返される……」
音楽室の男の子は言った。
「僕が受けた事と同じ目に遭ってしまえばいい」
こうして、幽霊は増えていく。
幽霊は自分を見つけた人間を自分と同じ目に遭わせる。
とある学校の音楽室に1人の男の子が現れた。そしてそれを見つけた男女は……
キ―――ッ
とっくに書き終わってたのに投稿してませんでしたm(__)m
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