ひょうし/小説を書こう
この世界で僕は君を忘れる3
作:あいうえお/中学1年 男子
「ただいま……」
 案の定、家には誰もいない。まぁいつものことなのだけれど、今日は愛菜がいなかったということもあり一人は少し寂しい。
 僕は鞄を机に置き洗濯物を出すとすぐにテレビをつける。普段はめったにテレビなど見ないけれど今日はとにかく人の声が聞きたかった。
 テレビをつけた瞬間同時に何人もの声が耳に入ってくる。
あぁ、この時間はもうバラエティがやっているのか。本当はニュースくらいでもいいのだけれど気分をあげるにはピッタリだと思う。
「はぁぁぁ……!」
 僕は大きなため息をつくとソファに寝っ転がる。
 そしてスマートフォンで愛菜とのメールを眺めるだけ。これだけでも愛菜と会話しているようで少し楽しかったりする。
「ん……?」
 少し気付くのが遅くなってしまったが、愛菜からメッセージが届いていたらしい。
 部活、終わったんだな。意外と早かった気がする。
『ただいま!今日は一緒に帰れなくてごめんね。でも、今日友達ができたの!明日3人で帰らない?』
 愛菜からのメッセージの全文はこうだった。
 その友達と、話し込んでいたのかな。僕と帰ることよりもそっちに夢中、か……。
 正直言って、かなり悲しかった。きっとそれは嫉妬に近いものだっただろう。
『おかえり、大丈夫だよ。うん、その子とも一緒に帰ろうね』
 僕はこの感情を悟られぬよう、できるだけ平穏を装ってメールを返した。
 しかし実際、僕の心中は穏やかではなかった。
 一緒に帰る、なんて言ってしまったけれど大丈夫だろうか、僕に話せるだろうか……。心配心と嫉妬心と混ざって、よくわからない感情になっていた。
 これは僕が愛菜以外の女子と一緒に帰ることを恐れていたからではないだろうか。
 どんな女子なのかも知らない……表ではいいふりをしているけど内心はーーなんてことが以前もあった気がする。そして僕はその正体にすぐ気がついた。
 ああ、僕は女子にいじめられていたんだっけ。そんな時、僕を救ってくれたのが愛菜だったんだっけ……。
 僕は無意識のうちに女子を避けているのだろう。だから、怖いのだ。さっきの感情はきっと恐怖心だったのだろう。女子とは極力関わりたくなかった。

ーーけれど今なら言える。この時、意を決してその子……加恋と一緒に帰って、本当によかったと。


翌日
 部活終了後、いつもにように校門の前で愛菜を待っている。
 10分くらい経っただろうか。満面の笑みを浮かべた愛菜が仲良さげに一人の女子と一緒にこちらへ歩いてくる。
 となりの子もまた、ずっと笑顔だ。でも僕はその笑顔を見ていられなかった。
 笑顔は見ていて楽しい時と、悲しい時がある。今は悲しい時に値するだろう。
 愛菜が僕以外と笑顔で話しているのが、どこか寂しかったんだ。
「お待たせ、ごめん少し時間かかっちゃった」
 愛菜は相変わらず笑顔のままこちらへ駆け寄ってくる。
 ……やめて。笑顔は見たくないんだ。
 そう言えれば楽だっただろう。僕にはその気持ちを明かす度胸もない。こんなんだから、いじめられるんだよな。
「ああ、うん。平気だよ」
 僕は小さな声でうつむき気味に言う。
 別に平気でもないのに、僕の口からはその言葉が出ていた。自分で自分が苦手になりそうだ。
「ありがと。そして、この子が昨日言ってた子だよ!」
 もう、いいや。笑顔でもどうでもいい……。
 僕は半ばあきらめつつ、"その子"の方へ目を向ける。
「立花加恋ちゃん! 私と一緒で吹奏楽部なの、拓也も知ってるよね?」
 愛菜の隣にいたのは、見覚えのある女子生徒だった。
「同じクラスの……?」
「……そうだよ!」
 一度も話したことのない人だ。学級委員でそれなりにスタイルもよく男女ともに仲がいい。そして目立つがゆえに、僕は苦手なタイプだと思っている。
「話すきっかけ無くて……よかったら仲良くしよ!」
 加恋は穏やかに笑いかけてくる。
 ……なんでだろう。さっきまで煩わしかったはずの笑顔が、恋しくなる。
「うん」
 僕はそう、短く返事した。
 自然と笑みがこぼれていたみたいだ、愛菜に気付かれて「何ニヤニヤしてるの?」と冷やかされてしまった。
 反発しようとしたが間違ってはいない。どうしたものか。
 その日の帰り、僕は加恋と愛菜の隣……つまり2人に挟まれていた。
 変わってくれと愛菜に言うが、「仲良くなるため」と押し切られてしまった。それなら挟む必要はないと思うが愛菜の隣にいられるだけ嬉しいから、そんなことどうでもよかった。
「ねー、2人とも何か話すことないの……?」
 さっきから隣にいるのに何も会話をしない僕と加恋を見て、愛菜がつまらなさそうに言う。
「うーん……」
 正直、話題はない。しかもそろそろ、2人ともお別れだ。
 俺の家はここからまだ10分くらい歩いた先。しかし愛菜の家は次の道を左に曲がってすぐ。加恋もきっとそっちについて行くだろう、と思っていた。
 会話がないまま時は過ぎていく。愛菜は相変わらず何か言っていたが2人とも口を開くことはあまりなかった。相づちを打つくらいだ。
「あーあ。私はここでばいばいだなー。仲良くなってよ?」
「ん、またね愛菜。加恋ちゃんも」
「えっ?私、まだ先だよ……?」
 え……?
 この地獄の時間がまだ続くというのだろうか。
 愛菜は非情にも自分の帰路に就いている。
 何を、話せばいいのだろう……?
 それから3分くらい経っただろう。意外にも加恋が口を開いた。
「なんか、デートみたいだね」
 加恋は少し震えた声でそういった。
 聞き間違い、だろうか? いや、そんな間違いするわけがない。
「なんか恥ずかしい」
 僕はあくまで加恋と目を合わせずに言った。
 でも……実際僕の心臓は大忙しであった。
 デート、なんて言われてしまうと好きでなくても意識してしまう。
「拓也くんは」
 そう言いながら加恋は僕に少し寄ってくる。そして視界の中に入った時、加恋の顔がこちらに向いたと同時に立ち止まったことに気付く。
「愛菜ちゃんと仲がいいの?」
 なんでもない普通の会話だった。チラッと加恋の方を向くと、その顔は赤く火照っていた。
「まぁ……小学生のころから、仲が良かったからね」
 かけがえのない友達。僕は愛菜のことをそう思って生きてきた。
 それが今では、好きな人、に変わってしまっている。
 最近、それがどこか寂しいような気もする。
「そうなんだ。じゃあ私とも、仲良くなってよ」
 加恋は軽くほほ笑む。
 その笑顔は僕に安心感を覚えさせた。
 なんだろう、加恋といると、心がすっきりする。もやが晴れていくような。
 幸せな気分になれた。

 その後僕と加恋は連絡先を交換して、そのまま別れた。
 家に帰るとすぐ、スマートフォンのトークアプリから通知が来ていた。もちろん加恋からだ。
『よろしくね! 拓也くん』
 自然と頬が緩んでしまう。
「何ニヤニヤしてるの?」そんな声が聞こえてきそうだ……。
『よろしく』
 あくまで短く、興味なさげに答える。やっぱり正直じゃないな。
『明日、2人で帰らない? 本当は部活ないんだけど、愛菜ちゃんは1人で練習するらしいんだ、えらいよね』
 僕の学校は、一週間に一度、多い時は二度部活の無い日がある。
 明日はそのうちの1日なのだが……愛菜は自習か。
 加恋とも、少し話してみたいし、明日はそうしようかな……。
『うん、そうしよう』
 その日の会話はこれで終わった。
 僕は夜まで落ち着かないままだった。
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