ひょうし/小説を書こう
それはまるで炭酸のような、(2)
作:湊/中学2年 女子

気分が元に戻った後、僕が一心不乱に首吊りの縄を作っていると自室のドアを開けて男が入ってきた。汗で濡れたワイシャツと目の下のどす黒い隈はその男がしがないサラリーマンなのだということを容易に想像させる。僕はその男を一瞥すると、また首吊り用の麻縄に向き直る。

「アイツは仕事か」
「うん」
「そうか。…………それにしてもお前の部屋は相変わらずぼろぼろだなあ。この壁、お前が切り刻んだのか」
「……」
「ここはカッターの傷だろう。ここは、拳の跡か。このぬいぐるみなんか首が鋏でちょん切られてるじゃないか」

脈絡のない会話。会話というよりかは一方通行の独り言であったが、そんなことを気にする素振りもなく男は続ける。

「薬は飲んでるか」
「…………飲んでる、けど、副作用がひどい」
「そうかあ」

男は笑って煙草に火を点ける。ありふれたハイライトを咥える男は僕にとって、一応「父親」という肩書ではあったけれど僕はこの人に何か有難いことをしてもらった記憶はない。強いて言うなら、三十八度の熱でへばっている僕に冷たいビールを頭からかけてくれたことぐらいだ。

「副作用、かあ」

そう言って男が口から煙を吐き出す。噎せ返る。未成年の息子がいるっていうのにこの人は受動喫煙を推奨しているのか。手で口元を覆って事なきを得る。煙で目が痛いけれどそんなことを言ったところでこのヘビースモーカーが喫煙を辞めてくれるものか。最近は一層煙草の本数が増えている気がするが、僕にはそんなことは関係ない。このひとが病魔に侵されて死ぬよりも早く僕は自死するのだから。

「自殺願望はあるのか」

男は煙草を指で挟むと、蟲のようにぎょろついた眼球で僕を見た。この人の目には光というものが宿っていない。(まあたぶん僕もそんな目をしているのだろうけど)

「あるよ。あるに決まってる」
「ふうん」

男は変ににやにやした顔で僕を見遣り、煙草をまた口に咥えた。

「飛び込み自殺は辞めてくれ」
「賠償金がえらいことになるからでしょ」
「当たり前だ。お前の命よりも金の方が大事だからな。金さえ掛からなければ、いつ死んでくれてもいいしどんな方法で死んでくれてもいい。それに、こっちとしてもお前が死んでくれたほうが有難いんだ」

この男にとって僕が邪魔で疎ましい存在だということはもうとうの昔に知っていた。だからこの人に死ねと言われても苦痛も私怨も感じない。自殺願望という欲にまみれた蟠りが増すだけだった。

「虐められても何も言えない、何にも取り柄がない、おまけに精神病患者ときたもんだ。こんなお荷物抱えて生きてくなんざ御免だね」

こんな酷いことを言われても偽善に満ちた欺瞞を言われるよりは幾分もマシだ、と思う。肯定の言葉や甘い言葉を囁かれても僕の劣等感に拍車がかかるだけなので、素直に本音を口にしてもらったほうがずっと有難かった。

「待ってろよ。もうすぐアイツに離婚届にサインしてもらうから。そしたら俺もお前たちきちがい共とオサラバだ」
「その時にはもう僕は死んでると思うけど」
「それもそうだな」

はは、と笑う男を見て僕は首吊りロープを思い切りきつく締め上げた。父親は虐待親でDV男、母親は旦那の奴隷、息子は精神薄弱者なんて正気の沙汰ではない。きっとここまで惨たらしい家庭環境の一家にはなかなか出会えないだろう。

「じゃあな。またくる」
「あぁ、」

男は僕との別れを惜しがるでもなく部屋から出て行く。だけどそれを悲しく思うような感情は昔あの人に蹴られたショックで吐瀉物と一緒に吐き出してしまったので僕は何も思うことなくまた首吊りロープを作り始めた。
おなまえはハンドルネームでいいです。
ID
パスワード 
ハンドルネームの後に(本人)をつける つけない
 ログインすると、IDなどが自動的に入ります。
お名前 
男女 女の子  男の子
学年 1年生  2年生  3年生  4年生  5年生  6年生
ようちえん  中学1年  中学2年  中学3年  大人
かんそう