ひょうし/小説を書こう
提灯の内輪でぬくもれば。1
作:藍和/中学2年 女子

*注意
 私の内には自分の書いたものを駄文や駄作といった言葉に任せて形容してしまうことを良しとしない自分が居て、そいつの血液ポンプの動力は、単に自身の作品に対する満足というわけではなく、眠る間際のぼやけた頭と温々とした布団の中で生産される世界を私だけは肯定してやる義務がある、という責任問題で働くものだと思っています。しかしこればっかりは、駄作かもしれない。にわか信念を曲げてここに明示しておきます。これは、長篇駄作です。なので、あんまり真剣に読まないでください。恥ずかしいので(笑)

 
 まだ人の姿を捉えることも出来ない、夜明け前の出来事だった。私は知らない十字路を左に曲がって、世の有象無象を内心で消化してしまう術を探していた。それをもたらす人間が、もしくは人間の容姿をした何者かが十字路の先にいることにはもう既に気付いていて、あとは会ってしまえば仕舞いだった。
 左足に蜂が刺すような鋭い痛みを感じた。同時にするすると帯のほどける解放感が私の腰回りをくすぐった。浴衣の裾を踏んでしまったのだ気付いた時にはもう遅かった。私を匿っていた呉服屋で無造作に積まれていた服の多くはまちばりをつけた作業途中の物で、そのうちから解れの少なく上等な浴衣を引っ張って着てみたものの、十字路の誰かを探すことに夢中でまちばりの存在を失念していた。もしやと嫌な予感がして、寒気が背筋を辿った。ふと立ち止まって左足裏をなぞってみると、深くまちばりが刺さっていた。悲鳴をあげそうになるのを堪えて、硬直しながら上がっていく口角に合わせ低い笑い声が漏れた。血が一本の線を引いて滴り流れている。私は指でそれを掬うと、やはり恐ろしくなってもう一歩さえ踏み出せなくなった。
「……大丈夫?」
 小さくか細い声が聞こえた。私は驚きで肩を震わせ、恐る恐る声のした方を見ると、今にも泣き出しそうな顔をした少年の姿が目に入った。暗がりの中に佇む少年は光に照らされていないのにも関わらずその輪郭がはっきりしていて、私に恒星を彷彿とさせた。
 しかし私は何故この少年の姿を捉えることができるのだろうか。まだ辺りにあるはずの家々の造形さえ認識できぬというのに。
「ああ、うん。心配はいらないよ」
「本当に? 本当に?」小さな水滴が少年の赤い頬を一筋伝う。端正な顔立ちも作用して神々しくありまた浮き世離れした雰囲気をも漂わせる少年は一体どこの子供だろう。私は人の子を、もしくは神の子を泣かせまいとして、奇妙な笑みで繕う。
「君が泣いてどうするのさ。もう遅いんだから、こんなところに居ては鬼に捕まってしまうだろう? 死ぬまで鬼にかごめを聞かせてやる一生なんて、嫌じゃないか。ね、そう思うだろう。家まで送ってあげるよ。君、一体どこの子供? 名前はなんていうの?」私はできる限り労りを持った声色と態度で、なんとかしてこの少年を宥めようとした。しかし、彼は私の気遣いを無視してぼろぼろと大粒の涙を流しはじめる。しまった。私は本能的にそう感じた。
「ねえ、ねえ、痛くない? 痛いでしょ? どうしよう。針が刺さっているのに」
「大丈夫。ほうら、見てごらん。血だってもう止まっているよ?」私は右手で傷口を押さえて、幸いにも針が短くすぐに血が止まったという演出をした。肉に食い込む針に今だけは知らない振りをしていようと心に決め、私は笑顔を作り続けた。
「でも」
「大丈夫だよ」
「……でも」少年は一歩二歩私に近付くと、私の右手を小さな両手で包み込み脇にどけた。
「どうしたの」
 その子供はまるで神の使徒のように感ぜられた。それは彼の動作などによって起因するものがあると推測される。したがって、彼の使途は平和と争いを触発させるものであることが容易に悟られた。
 少年は私の左足の傷を両手で輪を作るように囲い、その輪の内側に小さく美麗な顔を埋めた。
「……なに、してるの」瞬間、小さな痛みが私の足先から胴を支配した。それは痛みであるはずの、一種の幸福にも思えた。
 少年のまた小さな舌が自分の傷口を舐め擦っているのだと気付いた時には、もう何一つ痛みというものを感じなかった。私は茫然と少年の細い肩を見つめ、自分と同様にほどけた兵児帯を結んでやろうと彼の腰回りに手を伸ばす。
「痛い? もう、痛くない?」少年はまだ目に涙をためていた。
 私はふと左足に違和感を感じて、傷があるはずの位置を確かめた。少年の腰から手を離し、自らの足をかりとなぞる。
「え」
 私の触れた左足、そこにあったはずの針傷が影形をすっかり消していた。


 


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