ひょうし/小説を書こう
I Belong to You.
作:ひー/中学1年 女子


「サフィール様」
部下の一人が僕を呼んだ。
「陛下がお呼びです」
「……そう。すぐ行くと、そう伝えておいて」
「畏まりました」
溜息をついて、手の中の書物を棚に戻した。ふと窓を見ると、外はもう夜の帳が下りていて、澄んだ空には星屑が散らばっている。
「……僕は、」



++++++



“抱くぞ"と言われたから、“はい"と答えた。

国の機密がどうこうを脅迫材料にされて抱かれるーーこの主には伝えていないけれどーーのはよくあったことだし、そもそも主の命は絶対だ。僕がただ嫌だという理由で拒否できるものではない。
「そんなに簡単に了承するとは思わなかった」
と、初夜で彼は言った。
「寧ろ、拒否するとでも思っていたのですか」
そう問うと彼は笑って、僕の額に口付ける。
「ーーまぁね。お固いからね、我が国の官吏様は。“こういうこと"は嫌いだとばかり」
「好きとは一言も言っていません。……それに私は、貴方に死ねと言われたら喜んで腹を切りますよ。ーー当然、貴方に生きろと言われれば何をしようと、誰を殺そうと、地を這ってでも生きますが」
「物騒だな」
僕はふふ、と微笑う。
「私は貴方の道具(もの)ですから」

ーー持ち主に逆らう道具なんて、ないでしょう?



++++++



主は部屋の寝台に座って、煙草を蒸かしていた。
「ご政務は終わった筈でしょうに、なんの御用ですか」
大体、答は分かっていたけれど。
「疲れた。今日は仕事が多すぎる」
彼はにこりと笑って、こちらへ来い、と手招く。僕が近寄ると、僕の両腕を自らに引き寄せた。そのまま僕を強く抱き締める。
「………唐突ですね」
「大体察しているくせに、これからすることを」
海の真ん中でぽつりと立つこの国の城は、静かだ。窓際からはすぐに海が見渡せて、漣(さざなみ)の音が耳に心地良い。
押し倒されて、僕は主を見上げる。でも、きっとその視線は、まっすぐ主には向かっていない。
「……………主、」
「こういうときぐらいは、名前で呼んでほしいんだけど」
主は僕を見つめた。僕はその視線を受け止めきれず、目を逸らす。
主の視線すら受け止めきれない自分は、なんて情けないのだろう。不甲斐ないのだろう。
でも、その鋭く光る、孤高な高嶺の花のような瞳は、僕には受け止めきれないものだ、と僕は初めてこの瞳を見たときに思った。
「…ジェイド様」
「駄目、俺の名前に様なんて付かない」
「……………ジェイド」
すると、主ーージェイドはやっとにこりと笑った。
「なんだ?」
「何故、私なのですか」
女なんていくらでもいるのに、何故男のこんな薄っぺらい身体を抱くのか。ーーー否、抱ける人間なんていくらでもいるのに、何故わざわざ僕なのか。

理解ができなかった。

不自然。
こんな関係は、自然じゃない。僕が所謂(いわゆる)男娼のような“そういう"仕事をしていて、あくまで彼の妾であるならばともかくの話だ。
臣下であり、ましてや男。
理由がない。
「何故、です」
今まで、意図的にそれを訊くのを避けてきた。理由を知るのが恐ろしかったから。
なのに何故か、今夜の口はよく滑る。
「さぁ、ね」
ジェイドはそう言いながら微笑って、僕に口付けた。深くなるそれは、僕の口だけではなく心さえも侵食して、僕はそれに逆らえず侵されていく。
ああ、僕はもうこんなにも、貴方に堕ちているのに。
僕は、深い海に身体を沈ませて、そのまま溺れて逝く。
またそうやって、はぐらかして。
「ジェイド」
「ん?」
「……私は、貴方のことが好きです」
僕は瞑目して、言葉を次ぐ。
「急にこんなことを言われて、貴方は困惑するでしょうねーー嗚呼、いっそこれで貴方は私を嫌いになってしまえばいいんです。私は、大事にされるべき人間じゃない。貴方は私を大事に大事に使ってくれます。嬉しいです。でも、」
目を開ければ、そこには驚いた顔の主があって。
「私は道具です。道具に気を遣う人間なんていません。ーーそんな大事に、私を扱わなくていいんです。一切の汚れ仕事は私がします。貴方は玉座でただ清廉潔白な掌を掲げていればいい」
流れ出した言葉は、珍しくとどまる所を知らなかった。
「私は、貴方の道具。貴方の所有物です。貴方の手を煩わすことは許されません。ーー本来ならば、私のこの穢れた手が貴方触れることすら叶わないことなのに、」
ーー今夜、僕は一体どうかしている。
これは僕のまったくの本心であるはずなのに、何故だか涙が出てくるのだ。
「………何故泣く」
「……………すみませ、ん」
この静かな部屋に、更に沈黙が重なった。それはささやかな涙となり、僕の心を落ち着かせる。
「……俺は、お前を愛してるよ」
「………」
「全く以て、これは真実だーー否、真実などというものは真に存在しないがーー少なくとも、俺の中では真実だよ」
回りくどくそう言う主を、僕はやっと見つめた。
なんて綺麗なひとなのだろうか、と彼を見つめる度に、そう思う。なんて綺麗なのだろう、なんて清廉なのだろう、なんて優しいひとなのだろう。
ーーあぁ、僕はこのひとに触れてはならない人間だったんだ。
そしていつも、そう悟る。
阿呆らしい。
彼のそれに惚れといて、自ら後悔するなんて、阿呆らしい。莫迦のすることだ。ーー嗚呼、そうだった、僕は莫迦なんだ、と。
他人(ひと)の愛し方を、僕は知らない。
愛され方を、僕は知らない。
なのに、このひとは。
「お前を愛してるから、大事にする。ーーいくら国主といえど、一介の人間である限り、それは当たり前だろう?」
などと、僕に笑ってみせるのだ。

僕の涙腺は弱い。



「ーージェイド、貴方は狡い」








++++++





I belong to you.

ぼくは、あなたのもの。









End.







あとがき
どうも、こんにちは、ひーです。小説では明けましておめでとうございます!!((遅い
いやぁ、小説もお久しぶりですし、短編もお久しぶりですね。
このところ創作意欲はあったんですが、何を書いても全く筆が進まず!!!!(宵闇も紅目もなんも書けてません)
息抜きと称してこれでございます。くそですね。なんか自由掲示板であーだこーだ言ってたのとだいぶ変わりました。まさかホモになるとは。……予想外でしt((
ちなみに!! 登場人物のお名前について。
「サフィール」はフランス語でサファイアのことで、「ジェイド」は英語で翡翠のことです。私のクソみたいなネーミングセンスを助けてくれたネーミング辞典ありがとう。←
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