ひょうし/小説を書こう
【没作便乗】猫も杓子も、イラストも。
作:藍和/中学1年 女子

 特に絵が上手いわけでも、美術の点が良いわけでもなかった。ただ他より少し優れていて、絵師に混じると埋まってしまう。そんな程度。
 それでも絵師として私のもとに舞い込んだ依頼の数々は確かに私を高揚させ、夢を見せた。
「絵が上手い人って、何処か停滞してる」
 私の友人は言うけれど、そんなことはない。
 少なくとも私は例外である。だって、恵まれている。
 最近、こんなイラストをSNSに載せた。
【幸せなこと】
 私はノスタルジィに浸る少年の絵を、アナログで、珈琲に数時間浸した紙に描いた。それはどうにも伸び悩み私を苦悩させたけれど、有名な絵師が一つ誉め言葉を加えるだけで沢山の人間が掌を返したように私を誉めちぎるのだから、面白くて堪らない。
「次は、なんの絵が良いのかな」
 布団を被って考えるだけで、現実から離れた場所で過ごせる。
 その場所には、先生という生物がいた。
 先生と言うけれど、背が高いわけではなくて。少し小柄な男の子だった。けれど膨大な知識を小さな脳みそに蓄えている、不思議な子供。子供というのは間違った表記になるかもしれない。先生は数百年も世界を生きていて、それ故に沢山の物事を理解し、難解な問題の一番最適とされる解を教えてくれる。自分はそうして生きてきたのだと。
「やあ、また来たのかい」
「そうよ、来ちゃ悪いの?」
 先生は口を尖らせた。
「やあって言ってるじゃないか。勿論、歓迎しているんだよ」
 真っ黒な髪に真っ黒な瞳。それに反して白い肌がマネキンのようで、来ている服はピエロの全くそれだから人間味というのは感じられなかった。
 けれど、それが先生だから。
 日毎変わっていく服は、彼の趣味を多少含んでいる気がする。ある日はゴシックロリータのレースをふわりとさせた少女服であったり、真っ白なウェディングドレスを着ていた時には数秒固まってしまって動けなかった。
 だってあなた、男の子でしょう。
 そういうと先生は何時も決まって、
「男女の差別はそこから生まれるんだよ。セクシャリティは個の人権だろ?」
 と返してくる。全く容姿に似合わない物言いだ。
「ところで、今日はどうしたの」
「どうしたって、何が?」
「またアイデアをくれとか言うつもりじゃないよね」
 どうするもこうするも。理由も何も。
「気付いたらここに来ているの。正確には、意識だけ? 体は布団の中よ。きっと夢なの。先生は夢の人なの」
 ピエロの帽子は真ん中から二つに割れていて、その両端に鈴が一つずつくっついている。
 先生はそれを揺らしながら、こちらに一歩と近付いて来て、にたにたと笑った。
「アイデアが出てこないんだろ」
「違うってば」
「嘘つき」
 ぐるぐると私の回りを廻った先生の後ろには鈴の音がついてまわった。それが煩いと感じてしまったのだから、図星だ。私にはアイデアを出す為の頭脳が明らかに欠落している。
「アイデアが出ないならやめた方が良い」
「……どうして?」
 待ってました、体現の如くに先生は飛び跳ねた。
 こんなところは年相応であるのか。否、容姿相応というべきところである。
 内容の割りに合わないことをぼうと考えている自分に嫌気がさして、舌を一つ鳴らした。
 私は今、生き甲斐とも呼べるものを奪われようとしているのだ。生活として日常に組み込んでしまった一場面を消し去られようとしている。
「よく聴いておくんだよ」
 先生は前置きをして、唇に右手の人差し指を押し当てた。
「例えば小説家なんて良い例だ。ぼくは沢山の小説読んできたけれども、アイデア賞なんてよくあることだろ。あぁ、アイデア賞というのはね、アイデアばかりが優れていて文体が割りに合わない小説のことさ。無茶苦茶な文体で全く読めやしないね」
 可愛らしい顔でなんて辛辣なことを。
 しかし先生の口も暖まってきたらしく、言葉は波のように流れ出した。
「それは君の、イラストレーターとかの仕事と重なるだろう? 世の中の流れってそんなものだ。これは絵が上手い下手の次元じゃなくて、どれだけ面白いものが作れるかにある。勿論ね、滅茶苦茶な文章は嫌いだよ。無茶苦茶な絵柄も好きじゃない」
「解るようで、解らないのだけど。どうして私が絵師を辞めなくちゃならないのよ」
 いつの間にか大きな玉を持ってきた先生は笑った。
 器用にそれに股がると、くるくると動き始めた。
「だから、アイデアが命ってことさ!」
 それは単純で的確。生まれ持った才能を強調させるべくして生まれた職業とは幾らでも知れる。小説家であれ、絵師であれ、例えて楽曲製作者であれ。皆々、才能の中でもがいて、足掻いて、苦しんでいる。
 そうして非凡な才能を持った一握りが快楽を得ることができる。そういうこと。単純なこと。
「それでも……諦めたくないの」
「へえ、そう。まぁ、精々頑張るといいよ」
 先生の顔が間近に見える。
 屈託の無い笑顔が、私に語る。
「大丈夫だ」と。
 それだけで安心する。
 そんな虚構と夢を見ていた。
 先生はそうして、口付けをして。

「ぼくは君で、君はぼくなんだから」

 
 私は一人、また朝を迎えた入れた。


end.

あとがき

どうもお久しぶりです、藍和ですよ!
どうもどうも。
また幾らかお世話になるので、フレンドリで活動します(笑) 昔のように仲良くしていただければ良いなと。
それでは。
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