ひょうし/小説を書こう
宵闇、藍色牡丹。其の七
作:ひー/中学1年 女子


狂った世界だ。
でもそこで自分は狂っているのだから、その世界では正常。
狂った世界で正常なのは狂っていることと同じ。
そんな狂乱の中でも希望を見出すのは、愚かな行為だ。
愛だと信じて、差し出された掌を取るのは、愚かな行為だ。
ーーそもそも、ここには性愛も親愛も、なにものも存在しない。
“貴方を愛しています"
そんなありふれた言葉すら存在しない。
愛を語る言葉は届かないのだ。
それを解っているから、誰もそれを口にしない。口にすることすら愚。
偽りの言葉で客を惑わして、好きでもない人間ーーましてや初対面ーーと偽りの褥を共にする。そこは個人的な好き嫌いは関係なく、ただ言われたことに従うだけの世界。
偽りの表情で、偽りの言葉を吐いて、偽りの契りを交わす。
一体何が“偽り"で何が“偽りでない"のかは誰も手の届かない闇に葬られている。自分を知らないから、そもそも偽りであるとの認識も不可能。
その“偽り"はまるで寄生する致死毒のように、精神を蝕んでいた。
“普通"
普通というのは。
誰もが幸せと思うことを幸せに思い、誰もが望むことを望み、誰もが思うことを思い、誰もが通る死への道を歩むことだ。
死病と同じ。ここの人間は、もう“普通"には戻れない。
“普通になりたい"
そう思った人間ほど、深く蝕まれていて救いようがなかった。









宵闇、藍色牡丹。









月夜は溜息をついた。
「………お前は莫迦じゃないと思っていたけど」
静かで暗い部屋。
「さぁな」
吐息混じりの声は闇に吸い込まれる。
相手が見えないから安心したーー否、それはそれで不安でもあったが。
「魔性だったか、お前にはそれがありすぎる」
桂木は面白がるようにそう言った。
「こんな化物の容貌でも魔性って云うのか」
「その容貌だからこそだと思うけど」
二人は唇を合わせる。それはかりそめの“愛"を確かめるための手段で、受け入れも拒否もしない。二人が交わす接吻も褥も、ただ自分の存在を実感するためだけのもの。
「お前の貌は美しいけど、」
桂木は月夜の頬をなぞる。月夜は特に拒否もせず、またひとつ、溜息をついた。
「その何もかも諦めたような諦観の表情はつまらないな、感情の起伏が乏しい」
「人のこと言えないだろ、お前には言われたくない」
長い間痛い目に遭っているとやがて痛覚が鈍るように、この環境に倦んでいた。慣れてしまって、何も感じない。要は、飽きと諦観。
桂木は笑う。
「そうかな。お前よりはマシだと思うけど」
「性格が悪い」
「人に言えた口か」
また唇を重ねた。
桂木の背に回された手は、彼の着物を強く握っている。離れないように。引き剥がされないように。相手の存在を確かめるように。ーー自分の存在を認識するように。
褥を共にするとき、月夜はいつも泣いている。
「何故だろうーー涙が出てくるんだ」
そう言って泣きながら諦観の表情で笑う。
「これは性愛?親愛?」
毎度問うてくる彼に、桂木は毎度同じ答えを返す。
「愚問だよ」

ーーーー自分たちには、性愛も親愛も存在しないのだから。

「こんなことになんの意味があるの」
「なんの意味もないさ」
「じゃあやっぱり、夢も希望も掌も、すべてが幻で散る寸前の花か」
「そんなものが恒常的にあるなら、それは夢でも希望でも掌でもないんだ」
「何故誰からも、神からさえも真に必要とされていないのに存在している?」
「そういう風に生を受けたから」
「消えてしまいたい、死んでしまいたいと思うのは罪?」
「それは、皆が何処かで思っていることだ」
「それなら、俺たちは“普通"なの?」

こんな会話を、何度もした。
そしてその会話の最後には決まって、月夜は自分で、毎度まったく同じである絶望的な答を見つけるのだ。
そして、“何故か涙が出る”と言って泣きながら嗤う。自嘲の笑みを浮かべるその貌(かお)は、狂い咲きしている牡丹のようで、砕ける紅玉のようで、歪で、美しい。


ーー嗚呼、きっと最初から、生まれたときから、“普通"じゃなかったんだ。



******


「あれ。首里さん居たんですか」
廓(くるわ)の入口のほうで話していると、千早がつと後ろを振り返り、声をあげた。
「……うん、結構前から居たけど、二人の会話、邪魔しないように聞いてた」
呉羽が笑って言う。
「やめてくださいよ、それでも俺たちより歳上ですかーーそれで、朧月様はどうされたんです」
「朧月? 出かけてるよ、どうやら一人で行きたいところがあるんだって。何処かは知らないけど」
首里は朧月という男娼の護衛ーー呉羽や千早と同じだーーだが、話によると朧月と首里は異母兄弟のようで、どのような経緯で此処に至ったかは謎である。しかし、首里のほうはかなり小柄で子供のように見えるのだが、朧月はそれに対してとても背が高く、誰もが見上げる体をしていた。
ーー桂木様よりでかいって…。
この護衛二人は初めて見たときそう思ったものである。
「あの方、そういうの多くないですか」
「放浪癖があるからね」
首里は、先天的だと云う顔の星形の痣ーー朧月にもあるーーあたりを指で掻く。
呉羽たちから見れば、見下ろさないといけない位置に顔があるため、正直どこにその痣とやらがあるのかははっきり分からない。
ーー風麻さんより小さいって…。
この護衛二人は初めて見たときそう思ったものである。
そういえば、と首里が顔をあげた。
「そういえば呉羽、月夜様を刺した奴。牢にいたよ」
「はい?」
「牢にいた」
呉羽は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、そうですかと微笑った。
「というより、何故知ってるんですか」
「ん? 通りすがったところに“そういう場所”があったからそいつーー平部って言ったっけーーがいるか訊いたらいるっていうから見てきた。だけ」
「よくそんなことができますね…」
千早が呆れて言った。
「?」
首里は心底不思議そうな表情で首を傾げたが、呉羽がもういいですよ、教えてくれてありがとうございます、と言うと少し嬉しそうな顔で笑った。
「でも、それは僕じゃなくて月夜様か、もしくは水無月様に言うべきでは?」
「だって呉羽が一番あいつに対して怒ってたし、一番罪悪感かんじてたから」
流石、察しいいですね、と千早が言う。
「その通りですよ、こいつはだいぶ面倒臭い奴ですから」
「だよね」
首里は空を見上げた。
「日が暮れるよ。ーー行かなきゃ」
「ですね」
三人は三者三様の表情をしながら、廓に戻っていった。


******


決して悪人に生きてきたわけじゃない。
誰かを呪ったわけでもない。
いつかこの掌に入るかもしれない幸せを待っていただけなのに。


富も地位も名声も、そんなものはいらない。
こんな立場、欲しくもなかった。







なのになんで、ぼくのほしいしあわせは。












てのゆびのあいだから、こぼれおちていくの?





続…?


あとがき
どうも、こんにちは、ひーです。
やっちまいました(にっこりダブルピース)。
いや、もともとこういう設定(ピー音が仕事するやつです←)ではあったんですが、一体このめちゃめちゃ卑屈で暗い話は何処にぶち込めばいいんだと思案した結果、ここになりました。なんかこういうシーン書くたびに描写が露骨になってますね。とどまることを知らない私の両手です。いやぁ、あからさまな声とかは書くの控えてるんですけどね←←←
首里と朧月はリア友が登場させろやオイと拳銃を突きつけながら出してきたキャラです。(嘘ですごめんなさいキャラありがとう嬉しいし可愛いしくっそすきですごめんなさいごm)
いやーほんと不健全な話ですよね。ここまで読んでくださってる生き残りのあなた様はだいぶ神ですよ(何様)。
最後の******のあとの台詞というかポエミィな文章は誰のものかはご想像にお任せします(^ω^)←
コメント、アドバイスお待ちしております(^o^)
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