ひょうし/小説を書こう
宵闇、藍色牡丹。其の四
作:ひー/中学1年 女子


「殺す」
「殺してみろよ」
やめろ、という月夜の小さな声も聞こえない。そのまますらりと脇差を抜いた。この狭い部屋の中では、太刀は邪魔なだけだろう。
「おやおや。また物騒な得物を持っているのだなぁ。ーーそれは面白い」
そう言って平部は片手で掴み上げていた月夜を横に放った。男にしては小柄な体は、無惨に床に打ち付けられる。
「月夜様!!」
駆け寄ろうとすると、平部は面白がるように道を明ける。
呉羽は平部を振り返り、小さく呟いた。
「少し待て」
月夜はその白い顔をさらに蒼白にさせ、恐怖と痛みに表情を歪ませている。そばにしゃがみ込むと、涙で濡れた緋い瞳で呉羽を見上げた。
「…これ、抜きますよ」
そう声をかけて彼の鳩尾に刺さっている短刀に手をかける。すると月夜はふるふると力なく首を横に振った。
「……や、だ…無理、痛、い…」
「駄目です。痛いのは分かります。…僕だってこんなことしたくてやってる訳じゃありません。でも、放置しておいたら、こんな他に誰を刺したか分からない短刀なんて貴方の身体に毒です。変な感染の病が出ますから。ーー抜きますよ、舌噛まないように気をつけてください」
月夜は小さく頷くと、右手で呉羽の裾を強く握った。これ噛んでてください、と手ぬぐいを噛ませる。
ひと思いに引き抜いた。
「ーーッ…!!!」
「…すみません。終わりです。でもちょっと、」
目瞑っててください、と片手で月夜の視界を塞ぐ。
「ーー止、傷癒、令」
刀印を結び、視界を塞いでいた手と刀印を解いた手を打ち合わせる。
ーーーお願いだ、成功してくれ。
すると、ついさっきまで苦痛に歪んでいた月夜の顔が和らいだ。少し緊張してはいるが、恐らく意識はない。
彼をゆっくり横たわらせ、平部に向き直る。
「仲良しこよしは終わったか?」
平部は薄ら笑いを浮かべたまま、自らも抜いたのであろう脇差をくるくると回した。呉羽はにっこりと笑みを浮かべて言う。
「死ね」








宵闇、藍色牡丹。









「そう簡単にはいかないぞ?」
身を低くして斬り込んできた呉羽を、平部はひらりとかわす。ふいに、頬に切れ筋ができて、顔を血が伝った。
「ーー若いな」
「………」
「お前は何故あの男娼に仕える?仕事だからか?」
「……それは、お前に言う必要があることか」
平部は笑う。
「必要?ーーそんなものはないな、ただの俺の自己満足だ」
考えていたより呉羽の動きは俊敏で、いつの間にやら壁近くまで攻められていた。平部はその翡翠の瞳を見て、
ーー若くて、志に満ちた眼だ。
と思った。どうしたことか、やたらと自分が年老いに見えてきて笑える。
「…お前を殺す前に、ひとつ訊く」
「なんだ?」
「……お前は、何故月夜様を殺そうとした」
手に持っていた脇差は弾き飛ばされている。それ以外の得物はない。
ーーしくじったな。
まぁ、それも悪くない終わりだろう。ーー白鬼に少しでも傷を遺せたなら。
「…怨みがあるから」
「………うらみ?」
皮肉のように平部は嗤う。
「俺の家族は、あの白鬼が幼子の頃、あいつのせいで殺されたから」
「………………は……?…」
「あれが、あの白鬼が俺の親を殺したんだ。彼奴のせいで、あの村には病が広がった。その元凶はあの鬼だ。だって分からないか?白鬼だ。鬼だから、彼奴は病に罹らなかったんだ。何度も、彼奴を殺そうとしたーー俺だけじゃない、村衆全員が。でも、死ななかったのは何故だ?鬼だからだろう?」
呉羽は驚いたように目を見開いたが、すぐに叫んだ。その苛烈な翡翠は、射殺すように平部を睨む。
「ふざけんな、鬼、鬼って…月夜様は、ーーあの方は鬼ではない!!!」
平部の首に食い込む刃に力がこもる。その刃を避けることは不可能だ。
「ーー俺たちの憎しみを何も解らないで、よくそんなことを言えたものだな」
「死ね」
「容赦ねぇな」
呉羽は苦虫を噛み潰したような顔をすると、ふいに今まで平部の首に当てていた脇差の石突を、彼のこめかみに殴りつけた。平部はそのまま気絶して、膝から崩れ落ちる。
手で顔を覆った。
___一体、あの方には。
どんな過去があったのだろう。

指笛を鳴らす。助けを呼ぶときの拍。二人しか解らない暗号。
「……話は水無月さんから聞いている」
襖を開けて、一人の青年が入ってきた。名を千早と云って、彼も桂木という男娼ーー月夜とほぼ同じ地位の高位の男娼だーーの警護にあたっている。
千早は月夜に歩み寄り、傷の具合をしばらく黙って見ていたが、ふと顔を上げて呉羽を見た。
「お前、こんな呪術使えたっけ」
「忘れんなよ。お前が教えたんだろ」
「そうだったかな」
千早は呪術に長けているーー剣術は呉羽のほうが上だーーから、時々呉羽に呪術を教えるのだ。
彼は呉羽にはよく解らない呪をすらすらと唱え、よいしょと立ち上がった。
「何ぼけっと立ってんだ。運ぶぞ」
「ああーー桂木様は?」
確か桂木も、月夜と同様にひとりしか護衛を持っていなかったはずだ。そこから離れたら、またこんなことが起きてもおかしくはない。
「水無月さんの所にいる」
「ならいいけど」
「お前、あれ殺さなかったんだ。……ふぅん」
珍しそうな顔をして千早は、気絶して呉羽の手によって縛られている平部を見て言った。
「殺したら僕がお縄だろ、いくらあっちが罪人だとて」
千早は月夜に目を向けながら、ちらりと呉羽を見やる。
「……お前の所為じゃないから」
呉羽は渋い顔をした。


******


「……ん…」
真夜中に、敷いてある布団から小さな声が聞こえてきて、呉羽は眠気から気を起こした。
「月夜様…?」
慌てて駆け寄ると、月夜は眼を薄く開けた。まだ焦点が定まらず、その視線は宙を浮いている。
「…くれ、は……呉羽…?」
「そうです、僕です。呉羽です。ーー傷は大丈夫ですか」
「…傷?……あぁ、」
月夜は少し訝しむような表情をしたが、すぐに全てを理解した顔をした。喋ると痛むのか、軽く眉が顰められている。
ふいに彼の寝ている布団に水滴が落ちた。それはぽつぽつと落ちて、布団に染みを作っていく。
「呉羽……?」
「すみません。僕の所為です。僕が貴方の近くにいれば、貴方はこんな目に遭うことはなかった。全ては僕の過失の所為なんです、」
月夜は目を細めて即答した。
「違うよ」
「違いません」
「違う」
「………なんでそこまで否定なさるんですか」
呉羽は顔を月夜に向け、言った。
「なんでですか。なんで貴方は僕にそんなことを仰るんですか。僕の所為ですよ、ええ完全に僕の所為です、僕が千早だったらこんなに状況は悪くなっていなかったかも。ーー違いませんよ、僕は僕のあるべき職務を見失っていたんです。今、貴方に怒られても、殴られても、或いは暇を与えられても、僕は何も言えません。そうされるだけの過ちを犯したんですから」
「じゃあ、お前は和音から頼まれたことを断れたのか?違うだろ、あれは仕方がないことだったんだ」
月夜は疲れたのか、そこでふぅと息をつく。調子が良くない証拠に、明らかに顔色が悪い。
「そこまで自虐をするな。俺はお前が悪いとかは少しも思っていない。避けられないものだった。お前は何も悪くない」
部屋は静かで、暗い。高位の男娼の部屋は、下位の者の部屋から隔離されている。いくら夜の店と言えど、ここは静かだ。今頃、他の男娼は表に出ている頃だろう。
「……やめてくださいよ。貴方にそんな風に言われると、僕は甘えます。甘えが入ったら、この仕事ができなくなるーー救いようがない屑ですよ」
それに貴方は、と呉羽は続けた。
「貴方は、一体どんな人生を歩んで来たのですか。お人好しすぎます、僕には理解ができない」
月夜はふふ、と笑う。
「理解できないか。ーーまぁ、それはそうかも」
「笑い事じゃないです」
「終わった話だ」
天井を見つめて、呟いた。
「何も変わっちゃいないな」
「……え?」
「なんでもないよ」
呉羽は微笑った。
「そうやってなんでも隠さないでください、僕に言ってください、と言ったところで、おそらく貴方は言わないでしょう。ーーそれで僕は、信用されているのだろうかなんて思ってしまう。とんだ独占欲ですね、穢いものです」
「はは、別にいいと思うけど。ーーそういうの、嫌いじゃない」
また溜息をついて、月夜は瞑目する。
「疲れた。ーー寝る。おやすみ」
「……はい」


いつか僕にも、貴方のことがわかる日が来ますか。








続…?



あとがき
どうも、こんにちは、ひーです。なんか今更ですけど、この挨拶昔から変わりませんね。なんか変えるのも惜しいです。

はい。えっと今回は色々と混ざってますね。統一性がゼロ!! 千早と桂木(名前だけ)が出てきました。千早と呉羽は同い年です。仲良し護衛組。ちなみにその二人は男娼ではないです。
後半は独占欲がどうとかってホモが!!!!!←
なんか腐女子の皆さんに申し訳ないなとか思い始めました。こんなドロドロ非純愛BLとか誰得なんでしょうねぇ……(汗)。
呉羽はホモじゃないです。月夜も本質はホモじゃないです。仕事です。ホモじゃないです(黙れ)。
あと、本当にもう過ぎてたんですけど、11/9にねこぴー二周年になってました。5年生からやってきたのか私……老けたなぁ←
ここまで続けてこれたのは、本当に皆さんのおかげですね。去年は丁度今の時期は受験追い込みシーズンで、多分殆ど何も書いてません(多分。多分←)。テストが明後日と明々後日にありますが気にしません。課題が終わってません。そのくせなんか余裕ぶっこいてますね笑える。
とりあえず、二年間色々とありましたが、皆さんに感謝です!! 私が入ったときに居た方はもう殆どいらっしゃいませんけど、世代交代してるんですかね!!(汗) 私はできる限り続けていきます!!←
これからも何卒、よろしくお願いします!!!!

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