ひょうし/小説を書こう
宵闇、藍色牡丹。其の三
作:ひー/中学1年 女子



嫌な客だ。
一目見た時からそう思っていた。こちらを嬲るように見る目が下衆。ーー確か名前を平部と言ったか。外見からして、きっと三、四十ほどだろう。
そんなことは口に出すのは無論、顔に出すのもできないのでただ座って待っている。相手が望まなければ、自分からいくことはできないからーー最も、好きでこんなことをしている訳ではないが。
「……此処の遊郭で一番『売れている』というのがお前か」
「……ええ、一応」
正直、こういう客は苦手で、相手にしたくはない。しかし、銭を払ってくれているのは事実なので、逆らうことは不可能である。
だから、こんなことを言われても、内心毒づきながら微笑って返すのだ。
「無愛想なものだな。全く以て期待外れだ」
そして大抵、こういうことを言ってくる。所謂文句。
「…そうですかね。ーー申し訳ありません」
平部はふん、と鼻を鳴らし、扇で自らを扇いだ。
「……まぁいいわ。この代償は身体で償って貰う」
月夜は相手に分からないように、溜息をつく。ーー嫌いだ。
この少しの間で、何度毒づいただろうか。こんなことは慣れているが、不快感はいつまで経とうと拭われない。
平部は舌打ちすると、月夜の顎を痛いくらい乱暴に上げた。
「…人に身体を売る白鬼(びゃっき)が、よくもまぁこんな……穢い(きたない)な」
「………っ…」
痛い。掴んでくる顎も痛かったが、何より痛いのは。
「なんだその目は?ーー白鬼が人様に下るのは当たり前だろう?」
こんなあからさまな軽蔑と侮辱は久し振りだ。
「……っそんなに私をお気に召さらないなら、なんで、」
そう問うと、平部はにたりと嫌な笑みを浮かべた。
「いたぶりたくなったのよ。その紅い眼を。その白い髪を。全てが俺の不快要素だ」







宵闇、藍色牡丹。







ーーああ、運が悪い。
ふいに思った。今日に限って、襖の外に呉羽はいない。和音ーー此処の女中だーーに頼まれた雑務をしに行っている。
以前もこのようなことはあった。でも、その時はいつものように呉羽が襖の外に控えていたから、怪我をしたりーーましてや殺されたりーーしなかったが、今日は運が悪かった。
どうするべきか。
答えはどうしようもない、だ。
この先に待つのは、きっと、この男に殺されるか、もしくは犯されるかのどちらかの未来だろう。
無理矢理押し倒され、唇を奪われる。両手首を強く掴まれて、敷布に押し付けられた。
「……ん、っふ、」
怖い。
殺されるかもしれない。死にそうな目にあったことは幼い時から何度も遭ってきたが、やはり自分が殺されるかもしれないと解ったときは恐ろしい。ーーいっそ死にたいという感情があればよかったものを。
月夜の手首を掴む力が強くなり、それと比例して恐ろしさも増した。自然と涙が零れる。
耳元で、平部の声がした。

「……白鬼は黙って俺の言いなりになっていればいい」



******



「呉羽」
水無月が呼んだ。なんでしょう、と出て行くと、紫紺の瞳が呉羽を捉える。
ーー正直この人苦手だな…。
などと他愛もないことを考えていると、もう一度ーー今度は強めにーー呉羽、と呼ばれた。
「はい?」
「お前、今佩刀しているか」
呉羽は基本常に佩刀しているので、ええ、と答える。
「それが何か?どうされました?」
すると、水無月は少し顔を顰めた。
「月夜が、」
「月夜様がどうかなされたのですか!?」
「……そう急くなーーいや、急いてもらったほうがいいのかもしれん」
何かあったのだろうか。もっと早く帰っていればよかったと今更思った。
ーーそういえば。月夜様は客と相手をしていたような。そして僕が襖の外にいないということは、誰も警護がいないということではないか?
「何があったのです。早くおっしゃってください……!!」
呉羽の剣幕に水無月は溜息をつくと、
「月夜が契約の二刻を経っても出てこない。客もだ……無事を確認してこい」
「なぜ他の者を行かせなかったんですか……!! 部屋は、部屋はどこです、」
「紫陽花の部屋だ」
「いってきます!!!!!」
ばたばたと飛び出て行く呉羽を、水無月は横目で見た。
「あーらら。もしかして僕みたいになって帰ってくるかも」
いつからいたのか、風麻がくすくすと笑った。
「……笑うなど、趣味が悪いな」
「ふふ。そぉ?これでも僕は心配してるんだよ。あーあ、月夜大丈夫かなぁ。どこかの椿になっちゃうかもねぇ」
「その名は嫌いなのではなかったか」
「えぇ?これ、僕の名前じゃないから。僕は風麻だよ。椿じゃない。椿は何処かへ行ったんだ」
風麻は首を傾げて水無月を見る。
漆黒の隻眼は貪欲な烏のようだ。こんな時にでも笑っていられる風麻を、水無月は時々恐ろしく感じる。
「でもねぇ。たまーに、この右眼が痛むんだ。なんでだろうね。椿は僕じゃないのに」



******



「……月夜様?…お客様…?」
入っても構いませんか、と問い掛けるが、反応がない。耳を襖に付けて、中の音をどうにかして聞こうとする。
「……くれ、は…?」
聞こえた。
「…月夜様……っ!?…あの、大丈夫ですか、」
「……来るな……」
「え?」
「此方に来るなと言っている!!!」
ーー僕はどうすればいい。
声が掠れていて、荒い息も混じっていた。もしかしたら。

ーーもしかしたら、刺されている…?

「失礼します…!!!!」
呉羽は、いつでも刀を抜ける準備をして、襖を礼儀作法も無視して開けた。
「……莫迦ッ、来る、な」
そこには。
鳩尾を押さえて倒れている月夜と、自らのものではないだろう血で身体を染めた男が居た。
「………………!?」
「おやおや。見つかっちまったか。ーー白鬼のくせに、良い護衛がいるのなぁ」
「白…鬼……?」
「解らぬか。此奴のことよ」
そう言って男は月夜の襟首を掴み持ち上げる。持ち上げられた月夜の鳩尾には、一本の短刀が突き刺さっていた。
逃げろ、という意思をもった顔はしかし苦痛に歪んでおり、その紅い眼は必死に呉羽のほうを向いている。
「………っざけんな…」
無意識だった。
「ふざけんな、白鬼? お前のほうが鬼だろうが…」
「ーー此処は護衛も無愛想か……いや、此は放っておけんなぁ」
「……月夜様を離せ」
「俺がお前の言いなりになると思うか?」
呉羽は苛烈な目で男を睨みつける。やめろ、と月夜の小さな声がしたが、それも耳に入らないくらいに、呉羽は憤怒していた。
「殺す」
「殺してみろよ」

血濡れた夜はまだ明けぬ。






続…?



あとがき
平部殺す。(作者の呟き)
書きながら呉羽以上に怒ってました私。←
今回もなかなか過激な内容ですみません!!!! ブラックドロドロ作者の脳内が知れてしまいますね。←
月夜様ァァァアアァァ生きてくださァァアアァアイィィイィ((
そして!! 風麻くん!!!!!! 怖い!!! さすがサイコパス(?)。
次回は呉羽セコムが大活躍します、お楽しみに((
コメント、アドバイスお待ちしております。
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