ひょうし/小説を書こう
宵闇、藍色牡丹。其の二
作:ひー/中学1年 女子



「ねえ月夜」
軽やかで、女とも取れる声。
「ここの遊郭で一番の気持ちはどんなかんじ?」
漆黒の髪と漆黒の瞳を持つ少年が、柱に凭れ(もたれ)かかっている。彼は笑みを浮かべて、自由に動かない脚をぶらぶらと揺らした。
「僕もねぇ、『あんなこと』が起こらなかったら、あとちょっとで月夜の立場にいたんだよぉ。でも、こんな身体になっちゃったからねぇ?仕方がないよねぇ。ーーん〜お手伝いさんやるのも楽しいから、まぁいいかなぁ」
「……何が言いたい」
「別にぃ?」
月夜は煙管を蒸しながら、その形のよい眉を顰めた。少年は相変わらず笑みを浮かべている。ーーいっそ空恐ろしいものを感じるくらいに。
彼は脚を揺らすのをやめて、よいしょと松葉杖を持ち直した。
「……目は」
月夜がふいに口を開く。
「うん?なにー?」
「……もう、痛みはないのか」
少年は更に笑みを深くしたーー最も、彼が笑っているのは常日頃のことであるーー右眼の上の包帯に触れる。
「痛くないよ。見たい?」
「いや」
見たかったらいつでも言いなよぉ、と軽やかに告げる。
「ああそうだ、ねえ月夜」
こつん、こつんと松葉杖を突きながら月夜に歩み寄り、こう言った。
「ーー水無月は僕のものだよ?」
「……知っている」
「そうか、ならいいんだぁ。ーーそうだ、金平糖頂戴?」
月夜は一瞬とても意味深長なーーそう、とてもーー表情をしたが、文机の引き出しから美しい巾着袋を取り出し、金平糖をひとつ取る。
「ありがとー。じゃあね、お相手頑張ってねぇ」
少年はすっと月夜の白い手から金平糖を摘まむと、手をひらひらと振った。
「ああーー風麻」
月夜はいつもより低く、重い声を出す。まるで、彼との間に固い確執があるかのように。
不快だ。
あの、すべてを見透かして、すべてを陰に引きずり込むかのような眼が、不快だ。
あれを見ると、鬱になる。貼り付けたようなあの笑みが、気持ち悪い。
たった少しの会話なのに、やたらと疲労を感じるのは。

ーーきっと、近頃の睡眠不足のせいではないだろう。





宵闇、藍色牡丹。





風麻、と呼ばれた少年とほぼ入れ違いに、呉羽が入ってきた。
「……風麻さんですか。珍しいですね」
第一声にそんなことを言った呉羽を、月夜は疎ましそうに目をやった。
「なんでそんな風に僕を見られるんですか、僕なんかやりました?」
流石に理不尽に思ったようで、彼にしては珍しく抗議の声を上げる。
「…いや、悪い、なんでもないんだーーああ、なんでもない」
まるで自分に言い聞かせるように繰り返す月夜を呉羽は心配そうに見やった。
「……何か、あったのですか。ーー風麻さんと」
自分を覗き込む翡翠色の瞳を、月夜は見返すことができない。
呉羽はしっかりと座り直す。
「月夜様が沈み込むのなんてあまりないですから、僕すごく心配しているんですけど。何があったのか、詮索は致しません。でも、お願いですから、心配はさせないでください」
勝手なことを云うものだ、と思った。
「……少し黙れ」
「申し訳ありません」
その緋色の目を翳らせるものは、なんなのだろう。
呉羽は思う。
もしかしたら僕は、月夜様に恋をしているのではないか。でも、そういうのとは違う気がするのだ。
「ーーお前は、」
ふいに月夜が口を開いた。
「…なんでしょうか」
「彼奴ーー風麻があんな身体をしている理由を、知っているか」
「? いえ、知りませんが」
すると月夜は顔を俯けたまま自嘲的に笑う。
「そうか、知らないかーーそのほうがいい」
「ーーあなた様がそんな表情(かお)をしているのは、その『理由』のせいなのですか」
「どうだろうな。それもあるかもしれない」
二人の間に沈黙が降りる。別段珍しいことでも、心地悪いものでもない。
木格子の外の空を見ると、夕焼けが翳り、雲が藤色に染まりつつあった。
「……あと一刻もございません」
「客か」
「ええ」
「…準備をしろ」
月夜は立ち上がって、襦袢の上に着ていた羽織脱ぎ、呉羽に渡す。呉羽はそれを受け取ると、笑って言った。
「そんな表情(かお)をしていたら、綺麗なお顔が台無しです」
月夜は長い前髪の一房を結ぶ黒い飾り紐を手にしながら、少し驚いたような顔をした。
「…な、何か僕、変なこと言いましたっけ……」
「いやーーお前がそんなこと言うのも珍しいと思ってな」
「そう、でした、かね?」
「ああ」
月夜はやっと笑って襦袢の上半身を脱ぎ、伸びをする。その白くて華奢な背中に、呉羽は声をかけた。
「月夜様は、いつ此処に来られたのですか」
「ん?」
彼は白銀の髪の毛を淡い風に吹かせ、呉羽のほうを振り向いた。
「ーー月夜様は、いつから、此処の囚われになっているのですか」
月夜は笑う。
「さぁな。覚えてなどいない」



******



蝋燭一本のみの灯りが、狭い部屋を照らしている。
「……いつまでそこにいるつもりだ」
そこで一人、ひたすら筆を動かしている女が、独り言のように呟いた。
「あはは。気付いてたの?」
「当たり前だ、椿ーーいや、風麻」
「もう終わった話だから、椿って呼ぶのはやめてほしいなぁ」
障子の陰から、少年が顔を出した。松葉杖が無いということは、きっと壁に手をついて此処まで来たのだろう。
風麻はその漆黒の隻眼に、女ーー水無月の姿を映し出す。
「ねぇ、水無月」
彼は右手の指先で水無月の頬をなぞり、横から彼女を覗き込む。水無月はその紫紺の瞳を彼に向けて、彼の右眼の包帯を解き始めた。
「また?ーー水無月はずるいなぁ」
「今日はお前から来たのだろうに」
「そうじゃなくて。自分の身体を、二人の男に愛されたいんでしょう?」
水無月は自嘲のように笑う。
「どうだろうな」
唇を合わせた。そのまま畳の上に寝転ぶ。
「ほら。結局そうじゃん」
風麻が水無月の上に乗りながらそう云うと、水無月は下から風麻の顔に手を伸ばし、その細い手を彼の首に持っていく。
「あまりお前が可愛いものでな」
風麻は其の手を自分の手に絡ませた。
「何、誘ってるの?」
「誘っているかどうかは自分で考えろ」
「はは、まあ聞かなくても分かるけど」
帯を解き、笑う。
「…やっぱり、ずるいね。でも、君は僕のものだ」

夜は明けそうで明けぬもの。







続…?



あとがき
ひーです。
今回はものすごく……前以上に……不健全なものができてしまった気がする……(震え)。許してください←
風麻はヤンデレサイコパスですね(( 私的に気にいってます(笑)。
そして今回も月夜と呉羽の会話があります。こいつらは別に恋愛感情は互いに無いですが、呉羽は月夜の付き人なので。この二人のツーショットは多分(続けば)これからも多くなると思います。
水無月さんがヤバいです。初登場のくせに、濡れ場全部持っていってます。ずるい((((
今の所、個人的に好きなキャラは月夜様ですかね……。白皮症(アルビノ)って、この時代で差別とかあるのかなって思うし、実際月夜様の設定が色々と暗いものですから、そこらへんの話もいずれ書くことでしょう(他人事)。

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