ひょうし/小説を書こう
宵闇、藍色牡丹。其の一
作:ひー/中学1年 女子



「ーー白皮症か」
灯影(ほかげ)、と名乗った客ーー客は大抵偽名だーーは、月夜(つくよ)を見て感嘆の溜息を吐いた。
「私を選んだ時点でお分かりでしょうに」
「いや、改めて見ると、という意味だ。ーー美しいな、」
そう言って、月夜の唇をなぞる。
月夜はその緋色の眼を細めて笑うーー彼は男だが、その表情はさながら女のようであった。
「ありがとうございます」
しばらくの沈黙が降りた。灯影は特に自分からいくでもなく、ただ月夜を見たり、衝立の絵に見惚れていたりしていた。襖の奥から聞こえてくる笑い声と衣擦れの音が、余計その沈黙を際立たせている。
その沈黙を破ったのは、月夜だった。
「灯影様、」
「なんだ?」
月夜はふぅと一息つくと、灯影に少しずつ歩み寄りながら言った。
「……刻限は限られていますーー次がいるのです。確か灯影様は一刻だったような」
すると、灯影は軽く笑う。
「ここの者は刻にうるさいのだなーーさっきも、楼主の女に言われた」
「うちの支配人はそういう者ですから」
こちらもくすくすと笑うと、灯影はふいに月夜の手首を掴み、敷布に押し倒す。
そのまま唇を奪われた。酒を呑んでいた彼の口は、仄かに酒の香りがする。
「……っん」
手首を掴む力が強くなるが、こんなことはいつものことだと気には留めない。
やがて唇が離れると、月夜が微笑ったーーそれは女と見紛う微笑。
「…刻限までに、終わらせましょうか」
灯影は少し眉を上げることで是の意を示す。

ーーまた、唇が重なった。…あの酒の香りは消えぬまま。




宵闇、藍色牡丹。




「……雨、だな」
しばらく続いていた沈黙を破ったその声に、呉羽は「はい?」と間抜けた声を出してしまった。
「莫迦みたいな声を出すな。雨が降っていると言っただけだ」
「…はあ」
呉羽はその声の主ーー月夜を見る。彼は文机に肘を突き、煙管を蒸していた。
そういえば僕は、月夜様に渡すものがあったんだっけか。
ふと思い出し、懐を漁る。そこには、一通の文(ふみ)があった。
「月夜様」
「なんだ」
「文です」
「誰から?」
「えぇと……これは…そうきち…宗吉様からです」
答えると、月夜ははぁ、と溜息をつく。
「放っておけ。捨てろ」
「はぁ?」
なんでです、と問うと、莫迦か、と返された。
「お前は莫迦か? 俺への文は全部お前が確認して持って来ているだろう。そいつからの文を、俺は一体何通貰ったと思ってるんだ。しかも毎回同じ内容」
「どういう内容で?」
月夜はさっきよりも深い溜息をついた。
「籍を入れろ、だと。ーー頭がいかれてやがる」
要は、結婚しろということか。
此所は『そういう』遊郭であるから、似たような文は数が多い。月夜は此所でも一番売れている人間であるから、夥しい程の量を貰うのだろう。
そうだ、と月夜は文机の引き出しにその白い手を突っ込み、紙の束を取り出した。ーーすべて、未開封の文。
「これ、全部いらないやつ。捨てておけ」
「……はい」
見かけによらずずっしりと重いその束を受け取る。
では、僕はこれで、と部屋を出ようとすると、ちょっと待てと呼び止められた。
ああ、いつものか。
「給料」
と月夜は言い、薄紅色の金平糖を呉羽の口に突っ込む。そして自分も水色のものを口にすると、ひらひらと手を振った。
「ーー出ていいぞ。俺は寝る」
夜通し客の相手をしていたから、おそらくゆっくりと眠る暇も無かったのだろう。
「はいーーおやすみなさいませ。いつもの時間に起こせばいいですか?」
「いや。今日は少ないから、半刻遅く起こしてくれ」
「了解しました。では」
おやすみ、という声を背中に聞きながら、後ろ手で襖を閉めた。

今日の金平糖は。
何色だったっけ。いつも見る暇もなく放り込まれるから、見えないのだ。

ーー今日も、よく分からないな。

呉羽は紙束を持ち直して、焼却炉に向かって歩いていった。





続……?


あとがき
どうも、こんにちは、ひーです。
新作です!!!!
今回は設定説明が物語の中ではありません。読み進めていくうちに分かるようにしますので、ご安心くださいね(笑)。
簡単に言えば、男色遊郭の話です。(男色とは、所謂『衆道』…ホモセクシャル、BLのことです)この話は、史実や実際の人物と全く関係はなく、完璧に私の想像とフィクションですので、ご了承ください。実際に身体を売る少年たちはいましたが、それらは陰間(かげま)と云い、遊郭とは似ていますがまた別のものです。気になった方は調べてみてください。
陰間についても、今回出てきた月夜と呉羽の設定についても、自由掲示板の私の投稿にありますので、詳しく知りたい方はそちらをご覧くださると嬉しいです。

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