ひょうし/小説を書こう
Harmful❀
作:まかろん/中学2年 女子



『見えた』




そういう錯覚を覚えたのは、高校二年生の春、あの日の放課後から。



それは、なんとなく本を読もうと思ったのがきっかけだったのだ。

私は本能に従うように、図書室に向かう。


しかし、いざ着くと図書室は無人であり、扉には、『職員室にいます。本を借りる時は職員室まで。ご自由にどうぞ。』という貼り紙が貼ってあるだけであった。

普通はそんなことしては危ないのだろう。

しかし、この図書室には防犯カメラが大量に並べられていて、そのため死角が存在しないらしい。流石だ。

これが会議などがあっても図書室を開けておける理由だ。これは正直助かる。


誰もいない図書室に入り、明かりを付けた。

その瞬間、闇に包まれていたような図書室は光を帯び、規則正しく並べられた背表紙の羅列が私の瞳に映りこんだ。

私はいつも通り小説の並ぶ棚に踏み出した。

しかしその時
ふとなにか、糸で引き寄せられるような感覚に私は踊らされる。
そのまま私は無意識に図鑑の並ぶ棚の方に足を向かわせた。

そして私は静止する。
黒く、厚い背表紙と向かい合っていた。
黒い光のような雰囲気を放つ、その書物。
私はそれを手にとった。

(重い。)

ずっしりと重さが手に伝わる。

ふと、「これは図鑑ではないのではないか。」と思い、私は背表紙のラベルを確認した。

やはり場所が違う。

「ええと、元の場所に。」

背表紙の番号を見て、その番号の振られた本棚を探した。

しかし、探せど探せど見つからない。

よく見るとこの本、かなり古いようだ。
ボロボロで引っ掻きあとのある表紙に、年月が経ち、茶色くなってしまった紙。
その間には木で出来ている栞が挟んである。
木目が美しい。

なぜ、このような本がここにあるのだろう。

(…ちょっと、読んでみよう。)

私は興味本位で本の1ページ目を開いてみた。




「…日記?」
その本の正体は日記であった。
日付しか書いていない上に、日付も飛んでいる。
そして無茶苦茶な内容が並んでいる。
まるで日記の意味を成していない。


なんだこれ、と私はパラパラとその日記を捲っていく。
捲れば捲る程に紙が薄汚れていく。
無秩序な文字が並ぶ。
私はどんどん食い入るように、いや貪るようにページを捲っていった。

意味不明である。
特に面白くもないが、私はその本に惹きつけられた。


ふと、人影が視界の端に写る。
寒気がしてバッと顔をあげる。


私の向かいには美しくも可愛らしい女性が窓辺にもたれている姿が見えた。見えただけ。

綺麗な深い黒の瞳。白い綺麗な肌、赤い唇。
その綺麗な目に吸い込まれそうになる。
日記を閉じ、彼女を見つめる。
彼女の深い色の瞳はこちらを向いてなく、ぼーっと外を眺めている。
彼女が少し動くと腰まで伸びている栗色の髪が淡く光る。



なぜか、目を合わせる気になれずに私は本を適当な所に静かに戻し、図書室を出た。





私は教室に戻ると荷物を肩にかけ、すぐさま学校を飛び出した。
鞄に付いている小さな時計の針が6時半を指している。針は小さくも時を刻み続けている。

こんなに長時間図書室にいたのか。
私は自分の行動に困惑してしまった。




家に帰り、玄関に靴を並べた。
そのまま私は階段を駆け上がる。
そして千鳥足のまま自室のベッドにダイブした。



グルグルと彼女の姿が頭の中で渦巻く。

___美しい顔立ち。



ああ、なにを考えているんだろう私は。

だんだんと気味が悪くなってきて布団に潜った。



もう寝てしまおう。
うつ伏せになり、目を閉じる。
しかし彼女の深い色の瞳が脳裏にチラついて眠れなかった。


夕焼けに浅く照らされ、栗色の髪が揺らめく。

あの、美しい光景をもう一度見たい。

思い出すだけで動悸が早くなるのだ。
呼吸は徐々に乱れていくようだ。

彼女の姿が頭から離れない。

心臓の圧迫感や手足の痺れで私はどうにかなってしまいそうだった。



目の焦点が合わなくなり、次第に視界が狭まってくる。

息を潜めた。

何かに包み込まれる感覚がした。
ついには何も聞こえなくなった。

…自分が、消えてしまった気がした。

そこで私の意識はプツリと途切れてしまうのである。











「あれ?」

目が覚める。
急いで鳴り響くアラームを止め、時刻を確認した。


その時、気がつくことがあった。

「遅刻っ」

私は頭を抱える。
もうこのままでは学校に間に合わない。
一層の事、仮病を使って休んでしまおうか。


しかし何を思ったのか、「また図書室に行けば彼女が見えるだろうか。」そんな考えが頭の中を過ぎる。



私は食パンを咥え、すぐさま家を飛び出した。

(…まさか、食パンを咥えて走る日が来るなんてな…)

これでそこの曲がり角、出会い頭に誰かとぶつかればまさに恋愛漫画的。
しかし誰とも接触せずに学校に付いてしまった。

いや、ある意味それで良かったのかもしれない。 



階段を駆け上がる。
そして廊下を駆け抜けて教室へ向かう。

図書室の前を走る、と。



「あ、れ?」


一瞬時が止まった。

図書室の中。

見えた。
真っ白い陶器のような手には、
闇の色をしたあの日記が添えられていた。
深い色をした目玉はその本を見据えている。

私は立ち止まる。
心臓がドクドクと脈打つのが分かる。
自分の血液の流れる音。
キュッと心臓が収縮したような気分だ。

予鈴が鳴った。
私は気にしなかった。
いや正しくいえば、耳に入らなかっただけなのかもしれないが。

彼女に会おうとドアノブに触れる……
その瞬間、手に針で刺したような痛みが走る。
私は弾かれたように床に転がって、壁にぶつかった。

ふと見た私の指は赤かった。そう見えた。


花弁だ。


ゾクッと背中からなにか這い上がる感覚を覚えた。

それを摘もうとした。
しかしタイミング悪く足音が聞こえた。
顔をあげる。向こうからは楽しそうな笑い声が不規則に聞こえる。
きっと、一年生の教室の移動だろう。
もう花弁はなかった。

しかし鞄についた時計をみて私は震え上がった。

「…遅刻!」

私は立ち上がり、走り出した。

そして、授業を受ける。














『別に、怖いわけじゃない。』



別に怖いわけではない。ただ、この思いに動揺しているのだ。それだけのこと。


私は深く息を吸うと、思いきり吐いた。
心臓はドクドクと規則的にリズムを刻んで跳ねるだけだ。


違う。私のせいじゃない。













__暑い。死ぬほど暑い。

私は真夏にベッドに横たわっていた。

あれからいつの間にか三ヶ月経っている。その間1回も図書館に行っていない。友達には不思議がられていた。


立ち上がり、机の上のピンクの手帳型ケースの付いたスマートフォンを手にとる。そして画面を明るくし、写真のフォルダを開く。
写真のフォルダには、彼女の写真がぎっしり並んでいる。


「それは妄想。」


小さく笑い声が漏れた。


そして大きくスマートフォンを振り上げる。そこで私の動作は終わってしまった。

スマートフォンの中の彼女と目が合う。
胸の内がきゅっと締め付けられた。




微笑みかけてくれてる。



そういう、錯覚。









__『あの日記をもう一度開きに行こう』

そう言えば、彼女との出会いはあの日記のおかげだったなぁ。

休日、またこの図書館に入った。そしてあの日記を手に取る。日記はこの前と同じに汚かった。文字ももちろん読めない。


「やっぱり意味不明」私は諦めて笑う。

そして顔をあげた。







…見えない。




彼女の姿はなかった。






「……帰ろ。」













くるりと体の向きを変えた。

そして、足を踏み出す。



今、何時だっけ。

鞄についていた時計はもう使いものにならなかった。

「あー、壊れてるんだった。」

私は携帯を取り出し、時刻を見た。





「……写真…。」


ふと写真のフォルダを開く。

彼女は画面から消えていた。






「なんだ、そういうことか。」






そして上半身を軽く捻るように振り返った。




「こんにちは?」






私は彼女に笑いかけた。





また彼女も私に微笑み返した。






「さようなら?」






私は彼女に笑いかけた。







「さようなら?」









私は私に笑い返した。










そうだ。



『見えた。』




『見えただけだ。』
おなまえはハンドルネームでいいです。
ID
パスワード 
ハンドルネームの後に(本人)をつける つけない
 ログインすると、IDなどが自動的に入ります。
お名前 
男女 女の子  男の子
学年 1年生  2年生  3年生  4年生  5年生  6年生
ようちえん  中学1年  中学2年  中学3年  大人
かんそう