ひょうし/小説を書こう
紅目と刀と少年。ー伍ー
作:ひー/中学1年 女子




「こんな筈じゃなかった」






紅目と刀と少年。







「残念ながら、お前は俺の役には立たなかったようだ」


男は優しく嗤いながら、溯に歩み寄る。


「お前の罪の重さは、一体何人分だ? 一人分か? 違うな。十人分、いや百人分。ーーお前はこれまで、一体何人殺してきた?」


溯は後ずさるが、後ろはもう壁で、もうこれ以上は下がれない。彼は何故だろう、笑っているような引き攣っているような、そんな歪な顔をした。


「懐かしいなぁ、お前のその表情は。久しぶりに見させてもらった」


男は溯の額に、刀印を結んだ手を突き付ける。その途端、今までずっと黙っていた溯が声を上げた。


「やめろ、それだけはやめてくれ、俺はこんなことをしたかったんじゃないんだ…」


その悲痛な声は。
僕の胸を貫く。彼が声を上げるたびに、僕の心臓には何かが突き刺さる。ーーそれはまるで切れ味の良い刀身のように。


「……ぅあ……」


僕は喘いだ。
息ができない。ーーいや、僕はもう死んでいるから息をしていないのかもしれないが、とにかく苦しい。頭痛と吐気がして、目の前が霞む。

男はこちらの荒い息に気付いて振り向くと、少し驚いた顔をしてから、いいものを見たという顔で笑った。


「………はは、まさか、お前がこいつと『同調』するなんてな」
「……同……調……?…」


溯は苦虫を噛み潰したような顔になり、こちらから目を背ける。


「お前と溯の感覚は一体化してるんだよ。お前が今感じている苦痛は、全部溯と同じだ」


男は薄ら笑いを浮かべ、くつくつと喉の奥で笑った。ーーさながらそれは魔のように。そして、男は絶対的な『操る者』で。

ーーすべてはこいつの掌の上か。

きっとそうなのだろう。おそらく、僕があそこであのとき、『人間』の世界から足を踏み出すことなんか、それ以前からもう知っていたのだろう。

ーー恐ろしい。

そう感じた。
二人の『意思あるモノ』を操り、消滅から生成まで思いのままで。絶対的な『操る者』。


「……もしかしたら」


男は言う。



ーー俺が望んでいたモノが、



やはり嗤いながら。



ーーー作れることが。



「……『望んでいたモノ』……?」


僕が荒い息の中で返すと、男は僕の目を見つめる。


「紅目と黄金目……美しい」


こいつは。


「また、お前らが役に立つかもしれない」


僕と溯のことを、道具程度にしか思っていないのだろう。
あのとき置かれた掌は、所詮僕を手篭めにするための掌だったのだ。
あのとき感じた暖かさは、所詮僕の一方的なものだったのだ。

そう、すべては自分のため。


「俺をこんな所に墜とした『彼奴』を、殺せる」


殺意。
おそらくそう表現するのであろう感情が、僕を蝕む。

ーー殺してやりたい。

感じたことがなかった。今まで人を殺してきたのは、生きるためだったからで、決して望んだものではない。ーーただ、それでも、その骸を見ても、僕の心は動かなかった。

『人殺し』

事実だ。僕の手はすでに汚れていた。幸せを受ける権利はない。
正直、自分で自分が恐ろしかった。人を殺しても、死骸を見ても、何も感じない自分の心が。ーーこういうとき、『普通のひと』は罪悪感やら恐怖が湧き上がるのだろう。
無感情。
そのひとことに尽きる。罪悪感やら恐怖とやらを、知らなかった。ーーこれを知りたいと思うのは、不謹慎かもしれない。それでも、そういう感情を味わってみたかった。
それぐらい、僕の中は空っぽの人形なのだ。
何も感じない。何も怖くなかった。ーーきっとここまで、僕の心は荒廃していた。

男を睨む。


「……殺す」


多分、今まで存在してきて初めて。


「お前を殺す」


自分から感じた、『殺意』だった。
溯が不意を突かれたように叫ぶ。


「無理だ!!!!!……こいつには勝てないんだよ!!! 所詮、俺らはこいつの玩具でしかない、支配者だ、」


僕は笑う。ーーきっと歪に。


「……無理じゃないだろ? もう壊れてるんだ。どうせ消滅するなら、こいつを黄泉への手土産に」


おそらく溯は僕の言いたいことを察したのだろう、さっきと同じように目を逸らす。


「目を逸らすなよ。解ってるんだろ、やり方は。僕が解ったんだ、お前に解らないわけがない」


溯は俯いた。


「……そんなことをしたらきっと、」
「解ってる」
「…お前を巻き込む訳には、」
「もういい」
「壊れてる」
「そんなの今に始まったことじゃない」


そして、その黄金目をこちらに向けて、


「……成功する可能性は殆どない。それでもいいか?」


と言った。

ーー月のようだ。
ふと思う。あの黄金目は、闇夜に光る黄金の月。

僕は笑ったのかもしれない。


「もちろん」


男はそれまで、面白いものでも見るように黙っていたが、急に口を出した。


「……つまり、お前らは同調の能力(ちから)を使って、俺を殺す、と?」
「………そういうことだ」
「そうか。……そうか、面白い。やってみろよ、ああそうだ。お前らが俺にもし勝ったら、俺の使える能力をすべてお前にやろうか」


男は何かを手放すようにそう言った。そして溯の手首に貼り付けていた呪符を取ると、荒んだ笑みを浮かべる。


「……さぁ?いつでもかかってこいよ?俺はいつでも相手をしてやれるぞ」


溯が僕に向かって呟いた。


「……お前、本気かよ」
「もう言わなくても分かると思うけど」
「だからって、こいつを相手にするか、普通?」
「……既に僕らは『普通』じゃないんだ。だったら、もうなにも思うことはないだろ?」


溯はため息をつくと、


「ーー分かった」


とひとこと言い、瞑目する。




「我を刀剣に。今より京を宿主とし、其に交じる。今よりすべては其のため、すべては其のもの。ーー同調、急急如律令」




一息で言い切り、その月目を見開いた。
気付けば、あの時のように、僕の手には一振りの太刀が握られていた。

ーーああ、なるほど。

こういうことなのだ。
すべてを理解した。驚くように手に馴染み、そして驚くように力がある。ーーきっと、これが『同調』の本質なのだ、と。

頭の中に溯の声が響く。聴覚からではない、『感覚』からの声。


『お前の血だ』
「……血」
『一滴。一滴でいい。刀身に落とせ。それで、同調が完成する』


僕は右の人差し指を噛む。そこから流れ出た血は、刀身の上に落ちた。
すると、それはまるで刀身に吸い込まれるかのように消えていく。

溯が言った。




『始めだ。どうとでも俺を使え』




僕は男を見つめた。





『「………お前を、」』







亡き者に。












あとがき
すみませんでした(第一声)。
前回の紅目は6月でした。すみませんでした(二回目)。
いやぁもうほんとね!!!!! 紅目の2人組大好きなんですけど!!!正直、今まで書いてきた中で一番好みの2人なんですけど!!!!!!
書けなかったんです(爆死)。
スランプというか、他のものは書けるのに、紅目だけぜんっっっぜん書けなかったんですよ。なんででしょうねぇ……。不思議です。
とりあえず、なんか今回はめちゃくちゃ長い&急展開となっております。時間をかけて、コピペを繰り返して書いてきたものなので、愛着はあります。結構気に入ってはいます、ー伍ーは。
っていうか、ここまで長いものを気長に読んでくださるあなた様は神様ですか?((は
ありがたいです。
次回か次々回、最終話になるかと思います。それまで、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。これからも、紅目と刀と少年。をよろしくお願い致します。

コメント、アドバイスお待ちしております(^o^)
おなまえはハンドルネームでいいです。
ID
パスワード 
ハンドルネームの後に(本人)をつける つけない
 ログインすると、IDなどが自動的に入ります。
お名前 
男女 女の子  男の子
学年 1年生  2年生  3年生  4年生  5年生  6年生
ようちえん  中学1年  中学2年  中学3年  大人
かんそう